マイクプリアンプの話

ギターの吉原です。今回は是非いろんな人に情報共有したいと思ったので、久しぶりにコラムを書きます。

ダラダラと書いてしまう予定なので結論を先に言うと
”どんな現場でも自分の楽器の本来の鳴りを(なるべく)伝えたいならGrace Design ROXiは買いだと思います”
自分は買いました。

話の流れとしては
音響エンジニアのいない現場、音が一応出るという程度のミキサーやスピーカーしかない現場、ファンタム電源供給できるチャンネル数限られてたり、そもそも+48Vじゃなくて+30Vだったり+24だったり、色々あると思います。 例えばYAMAHA STAGEPASなんかは安くて可搬性が高いので良く見かけますが上記を全て満たしてしまっています。 私はそれらの環境下で本来の楽器の鳴り、良い音を届けられないのは仕方ないと思っていました。

しかし、最近になってさすがにもうちょっと良い音鳴ってるんだからそれを届けたいと思い、マイクプリを調べ直したところ、2024年の頭くらいに原音忠実系ラックのマイクプリとして有名なGrace Design社から ライブユースを想定したペダル型のマイクプリREXとROXiが発売されていました。

Grace Designといえば宅録用にM101などのラックが定番となっていたり、ライブユース想定のMIC入力とインスト入力(ピエゾPUなど)の2系統の入力を想定したFELiX2が既にありますが、
M101はライブユースにはしにくそう、
FELiX2はデカすぎて持ち歩きたくないレベル、あと2INというのが自分には持て余す
という理由から買っていなかったところに、マイクプリ専用機という、まさに欲しかったものが現れていました。

ちなみに、ライブユースのマイクプリの他の選択肢としてはAERも有名ですが、AER DUAL MIX2もCOLOURIZER2もなぜかファンタムが+24Vなので使いたいマイクが使えない

すぐに仕様書や公式レビューを確認、 まず気になったのは小型モデルREXはエフェクターボード内での取り回しがしやすいようにと、9V駆動になっています。 ROXiのほうは100V駆動です。 メーカーの謳い文句としてはいずれも同等にGrace Design品質の最高級プリアンプ的なことが書かれていましたが、 電源がそれだけ違うので回路も全く別物だろうと思い、仕様書を見てみると ROXiにはEIN(入力換算ノイズ):-130dBu(インピーダンス50Ω想定)という超低ノイズのスペックが記載されているのに、REXにはEINの記載がない

EIN(入力換算ノイズ)とは----------------------------------------------------------------------------------------------------
EINはプリアンプの回路内で発生するノイズの大きさのことで、当然小さいほうが良いです。 あくまでノイズの大きさのことだけなので音の特性までは示すものではないですが、プリアンプ回路をこだわっている製品は当然この数値も良いので 良いプリアンプかどうかのざっくりとした指標にはなります。ただ、計算方法がメーカーごとに多少違ったりするのであくまで参考程度に。一般的に単位は[dBu]です。 単位を変えて数値を良く見せようとしているメーカーもあるので注意
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やはり、メーカーもプリアンプの性能的にREXは劣っていると分かっているはずです。 ちなみに、私が開発に携わったZOOMのMAA-1というマイクプリはEIN-120dBuくらい YAMAHA Stage Passのミキサー内臓プリアンプはEIN-113dBu。 ROXiも実際マイク想定で150Ωで計算したら-128dBuくらいな気がします。 持ち運びを考えたら小さいREXのほうが良いけど、肝心の音が劣るのはちょっと、、代理店のアンブレラカンパニーのHPにある公式レビューでは REX, ROXiはそれぞれプリアンプのキャラクターが異なる、とちょっと濁した感じのコメントがありました
アンブレラカンパニーさんにラックタイプとREX, ROXiの回路の違いについて問い合わせしてみたところ そもそもラックのものと違いトランスが入っている回路ということで、定番となっているラックとは全く別物になっていると思われる。。

これはもう試してみないと分からないと思ったので神田にある宮地楽器レコーディングプロショップ経由で代理店のアンブレラカンパニーさんにデモ実機を手配してもらい 数日後に店舗でお試しさせて頂きました。 この宮地楽器のレコーディングプロショップ(RPM)はさすがの品揃えで、プロ仕様のモニター環境が整っており、デモ実機の手配と一緒にお願いした セッティングを完璧に用意しておいてもらいました。

今回、「簡易的なミキサーとスピーカーでも良いプリアンプを使えば音は原音に近くなるのか」を試したかったので あえて

①DPA4099(持ち込み)→STAGEPAS 200のミキサーに直接挿しMIC入力(内臓プリアンプ使用)→STAGEPAS 200の内臓スピーカーで出力
②DPA4099(持ち込み)→Grace Design REX→STAGE PASS 200のミキサーに挿しLINE入力 → STAGEPAS 200の内臓スピーカーで出力
③DPA4099(持ち込み)→Grace Design ROXi→STAGE PASS 200のミキサーに挿しLINE入力 → STAGEPAS 200の内臓スピーカーで出力

の3つパターンを切り替えて試せる環境を作ってもらいました。残念ながら比較検証中の写真は取り忘れました。 下記に感想を書いていきます。



①ミキサー内臓プリアンプ:良くライブでモニターしたときに聞こえてくる残念な音、 とりあえず音が出ているような状態で、コードの和音なんかはこもってしまっている

②REX:①と比べて数段綺麗に、音の粒がはっきりしていて、原音に近づいた印象。十分良くなったけど③と比べるとちょっと詰まっているような、コンプ感のような、ちょっと違和感はある

③ROXi:②よりさらに音に余裕があり、純粋に原音に近い音が出ているようなイメージ、弾いていて楽しい 単音のニュアンスも細かく出ている



ということで、私はROXiをその場で即決しました。ギターを弾く人なら明らかに違いはわかるレベルでした。開放弦じゃらーんと鳴らした瞬間に。ほかの楽器だとここまで分かりやすいかは微妙です。 普段マイクの性能評価などの仕事もしているのですが、やはりギターのような複雑な和音はマイクの違いも分かりやすいのと同じようにプリアンプの性能も分かりやすい気がします。 あのスピーカーであれだけ違うなら良いスピーカーならもっと差が出てくるはずなので、それは今後の検証にしたいと思います。

こだわりの音をきちんと届けるためにはお金をかけても良いところかと思います。 興味がある方は是非一度試してみてください。

アンブレラカンパニーさんに問い合わせするとデモ実機の貸し出しをしてくれますが、やはり今回お店のモニター環境で試せたのはとても良かったので 是非都内の人はこの宮地楽器レコーディングプロショップでの試奏をおすすめします。 普通の楽器店と異なり、音響専門スタッフが常駐しており、知識がとても深く参考にもなります。

ちなみに、REX, ROXiともに注意点なのが、最大出力が+20dBuくらいあるので、STAGEPASのような簡易的なミキサーだと最大入力が小さすぎてそこでクリップしてしまう可能性があります。 そういうときはREX, ROXi側のGAINを下げるなどしないといけないので、そこは注意です。



ちなみにちなみに、せっかくなので上記を読んで機材導入を検討してくれた人にマイクの指向性と周波数特性についても簡単に触れておこうかと思います。 私が使用しているDPA4099を例に話すと、単一指向性のマイクには音源に近づけすぎると低音が大きくなってしまうという物理的な現象が発生します。 DPAではこの現象時の周波数特性も公表しています。下側のグラフがそれです。見ると通常ギター用のグースネックで取り付ける距離だと10cm程度しか離せないので低域で6dBくらい大きくなってしまっています。 6dB差というと2倍ですからね。 ただ、下のグラフはマイク正面の特性なので、実際にはグースネックでのマイキングだと音源に対して0度ではないので、少し低域が落ちる様子、なので6dB差ではなさそう。 いずれにしてもEQで調整しておいたほうが良さげな箇所です。これが言いたかった。 上側のグラフでマイクの角度ごとの特性が確認できますが、こう見ると超単一指向性というだけあって、30度でも0度に対して2dBくらい差があるので基本的にはシャープな指向性と言って良いと思います。 ただ、低域に関しては180度と0度でもうちょっと差があってほしいですが、そこは差が少ないので、ハウリングが起きちゃったりするのはこの辺の特徴によって回ってしまっている可能性もあります。 せっかくなのでポーラパターンも載せておきます。





画像引用元:アンブレラカンパニーホームページ、キクタニミュージック株式会社ホームページ