この音楽は1930年代に、音楽を生業としていたロマ民族のジャンゴラインハルト(Django Reinhardt 1910-1953)によって形成されました。 彼らは移動しながらの生活だったために使用する楽器はヴァイオリンやバンジョー、ギターなどの弦楽器のみでした。 そんな中で生活していたジャンゴが自分たちの民族音楽と当時彼が憧れたスウィングジャズを融合させて演奏したのが現在のジプシージャズになります。
ドラムもピアノも使えないため、リズムとハーモニーをギター1本で演奏します。これがこのスタイルの最大の特徴です。 リズムも独特の奏法で通称「ポンプ」と呼ばれており、一見簡単そうなこの役割が非常に重要なのです。 それゆえにトリオやカルテットでは多くの場合リズムギター専門のプレイヤーが入ります。 Adrien Moignardと一緒に演奏しているMathieu Chatelain、その教え子のRemi Oswaldなどのポンプをぜひ見てほしいと思います。 これからジプシージャズを始めたいという方は必ずこのポンプから練習しましょう。 正しいフォームでないと良い音で安定してポンプをすることが出来ません。そのため一流ソリストは皆一流のポンピストでもあります。
ドラムとピアノの代わりになるリズムギターに加えソリストもまたギターで、ジャンゴはこのソリストでした。 当時PA設備なんて、ましてや外で演奏しているので、使えるはずもなく、リズムギターの音量に負けずにソロをとるために、大きな音の出る特殊なギターを弾きました。 それがSelmer製のギターでサウンドホールがDになっているものです。後に穴が小さいOvalホールというモデルも作られ、それらが現在マカフェリギターとかセルマータイプとか 呼ばれています。しかし普通のアコースティックギターのように弾いても大きな音は出ません。奏法もまた特殊なので、買ってはみたもののあの音が出ないと嘆いた方も多いのではないでしょうか。
そしてリズムギター、リードギター、それにベースが加わり、もう一人ソリストが入る場合、同じ弦楽器であるヴァイオリンが入ることが多いです。 ジプシージャズで最も有名なのはギタリストDjango ReinhardtとヴァイオリニストStephane Grappelliのバンドであり、彼らの演奏に強く影響を受けています。 Grappelliと演奏しているDjangoはレコーディング中にGrappelliのソロにテンションが上がって「イェー!」なんて言っていることもしばしば。
ジャンゴの演奏している姿が唯一残された曲「Jattendrai」の貴重な演奏動画と、ジプシースウィングジャズの代表曲「Minor Swing」、そして古い音源は聴きにくいという方に、 現代の若手筆頭たちが1本の本物のSelmerギターを交代しながら演奏するSelmer607の動画をどうぞ。100年弱の時を経て、ジプシージャズは多様な変貌を遂げました。
言い忘れていましたが、ジャンゴは家が燃えてそのとき左手の薬指と小指に火傷を負ってまともに動かせず、ソロは人差し指と中指の2本で弾いています。 ジプシージャズの和音や運指が特殊なのもそれに由来しています。